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静岡地方裁判所 平成元年(ワ)460号 判決 1990年2月26日

原告

小早川良民

ほか五名

被告

飯田英一

主文

一  被告は、原告小早川一彦、同小早川良民及び同永井葉子に対し各金三六五万八七三三円、原告小早川隆、同小早川幸雄及び同森川愛子に対し各金一八二万九三六六円及び右各金員に対する平成元年四月一三日から各支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立て

一  原告ら

1  被告は、原告小早川良民、同小早川一彦及び同永井葉子に対し合計金一五〇八万一九〇二円(右原告らそれぞれにつき右合計金額の各三分の一)、原告小早川隆、同小早川幸雄及び同森川愛子に対し合計金七三九万〇九五一円(右原告らそれぞれにつき右合計金額の各三分の一)及び右各金員に対する平成元年四月一三日から各支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

被告は、平成元年四月八日午後一時四八分ころ、普通貨物自動車(車両番号・静岡四〇た八八九八、以下「加害車両」という。)を運転して新静岡センター方向より呉服町通り方向へ走行してきた後、静岡市追手町一番一三号付近路上において右折した際、見通しの良好な場所であつたのに、前方を十分に注視しなかつた過失により、折から横断歩道上を歩行していた訴外亡小早川英子(以下「亡英子」という。)に加害車両を衝突させて頭部外傷を負わせ、同人を同月一二日入院先の静岡済生会総合病院において死亡させた。

2  被告の責任原因

被告は、加害車両の所有者であつて、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条本文により、また、前記のとおり前方不注視の過失により前記交通事故(以下「本件事故」という。)を発生させたものであるから、民法七〇九条により、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任を負う。

3  原告らの相続関係

亡英子には、配偶者、子及び直系尊属がおらず、法定相続分に従い、弟の原告小早川良民、同小早川一彦及び本件事故前既に死亡した姉黒川墨江の子である原告永井葉子が各九分の二の割合で。本件事故前既に死亡した兄小早川滿洲雄の子原告小早川隆、同小早川幸雄及び異母妹の原告森川愛子が各九分の一の割合で亡英子の権利を相続することになる。

4  損害

(一) 亡英子の逸失利益 金五九八万三〇四四円

亡英子は、大正九年二月二四日生れで、本件事故当時満六九歳であつたが、極めて健康であり、本件事故にあわなければ、なお五年間就労することが可能であつたから、昭和六一年度賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、満六五歳以上の女子労働者の平均年収額金二二八万五〇〇〇円を基礎とし、右金額から生活費として四割を控除し、五年間に対応する新ホフマン係数四・三六四を用いて年五分の割合による中間利息を控除して、亡英子の逸失利益の死亡時における現価を計算すると、次の計算式のとおり金五九八万三〇四四円となる。

金二二八万五〇〇〇円×(一-〇・四)×四・三六四=金五九八万三〇四四円

(二) 葬儀費用 合計金一一五万三八一〇円

(1) 祭壇関係費用 金七五万九一一〇円

(2) 霊枢車費用等 金四万四七〇〇円

(3) 寺院費用 金三五万円

(三) 入院慰謝料 金三万六〇〇〇円

金九〇〇〇円(一日当たりの慰謝料額)×四日(入院期間)=金三万六〇〇円

(四) 死亡慰謝料 金一五一〇万円

(1) 本人の慰謝料 金一三〇〇万円

亡英子は、死亡直前には、平成元年三月に勤務先を退職した原告小早川一彦及びその妻と同一の建物に居住し平穏な人生を楽しもうと計画していたところ、その矢先に何らの過失もなくして突然にその生命を奪われたものである。

(2) 原告ら固有の慰謝料 合計金二一〇万円

原告小早川一彦は、右のように退職後妻及び亡英子と共に生活することを楽しみにしていたものであり、その他の原告らも亡英子と従前から通常の親戚づきあいをしており、亡英子の突然の死亡に対する悲しみは深い。このような事情を考慮すれば、原告小早川良民、同小早川一彦及び同永井葉子の分として各金五〇万円、原告小早川隆、同小早川幸雄及び同森川愛子の分として各金二〇万円の固有の慰謝料を認めるべきである。

(5) 弁護士費用 金二〇万円

(6) 以上によれば、亡英子の損害は、右(一)ないし(三)、(四)(1)及び(五)の合計金二〇三七万二八五四円となるので、原告小早川良民、同小早川一彦及び同永井葉子は、あわせてその三分の二(各人の法定相続分九分の二×三)である金一三五八万一九〇二円(円未満切捨て)の損害賠償請求権を相続し、これに右(四)(2)の固有の慰謝料合計金一五〇万円(五〇万円×三)を加えた合計金一五〇八万一九〇二円を、原告小早川隆、同小早川幸雄及び同森川愛子は、あわせて、亡英子の損害の合計の三分の一(各人の法定相続分九分の一×三)である金六七九万〇九五一円(円未満切捨て)の損害賠償請求権を相続し、これに右(四)(2)の固有の慰謝料合計金六〇万円(二〇万円×三)を加えた合計金七三九万〇九五一円をそれぞれ被告に対して請求することができる。

5  よつて、原告らは、被告に対し、前記申立てのとおり右各金員(合計金一五〇八万一九〇二円及び合計金七三九万〇九五一円)及び右各金員に対する本件事故発生の日の後である平成元年四月一三日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、被告が加害車両の所有者であつて、これを自己のために運行の用に供していた者であり、前方不注視の過失により本件事故を発生させたことは認めるが、その余は争う。

3  同3の事実は知らない。

4  同4は争う。

第三証拠関係

記録中の証拠に関する目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の事実(本件事故の発生)及び同2のうち、被告が加害車両の所有者であつて、これを自己のために運行の用に供していた者であることは、いずれも当事者間に争いがないから、被告が自動車損害賠償保障法三条本文により本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任を負うことは明らかである。

二  成立に争いのない甲第三号証の一ないし一一によれば、請求原因3の事実(原告らの相続関係)が認められる。

三  そこで、請求原因4の本件事故によつて生じた損害について判断する。

1  亡英子の逸失利益

前記甲第三号証の九及び原告小早川一彦本人尋問の結果によれば、亡英子は、大正九年二月二四日生れで、本件事故当時満六九歳であつたが、健康であり、無職であつたことが認められる。右によれば、亡英子の逸失利益の死亡時における現価は、年収額を金二〇〇万円とし、右金額から生活費として五割を控除し、就労可能期間五年間に対応する新ホフマン係数四・三六四三を用いて年五分の割合による中間利息を控除して次の計算式により算出される金四三六万四三〇〇円と認めるのが相当である。

金二〇〇万円×(一-〇・五)×四・三六四三=金四三六万四三〇〇円

2  葬儀費用

原告小早川一彦本人尋問の結果により成立の認められる甲第四号証の一、二及び右本人尋問の結果によれば、亡英子の葬儀等のため原告ら主張のとおり合計金一一五万三八一〇円が支出されたことが認められるが、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては金九〇万円の限度でこれを認めるべきである。

3  慰謝料

前記甲第三号証の八ないし一〇及び原告小早川一彦本人尋問の結果によれば、亡英子は、昭和二三年に婚姻したが、昭和三〇年に離婚し、姉黒川墨江が静岡市内で営業していた飲食店を手伝うようになり、右墨江が昭和四一年に死亡してからは右営業を引き継ぎ、原告小早川一彦の妻がこれを手伝つてきたこと、その間、昭和四三年ころ原告小早川一彦は神奈川県の勤務先に単身で赴任したこと、亡英子は、昭和五六年ころ右飲食店の営業をやめ、店舗のあつた敷地に五階建ビルを建て、一階から三階までを亡英子の、四、五階を原告小早川一彦の各所有とし、亡英子が三階に居住し、一、二階を店舗として賃貸して賃料収入を得、四階に原告小早川一彦の妻が居住するようになつたこと、原告小早川一彦は、本件事故直前、前記勤務先を退職して静岡の妻のもとに戻り、亡英子と同一のビルで生活することを予定し、亡英子ともどもこれを楽しみにしていたこと、右のように亡英子は、原告小早川一彦と最も親しくしていたが、その他の原告らともしばしば行き来があつたこと、なお、亡英子と原告らとの間には従前から扶養をしたり、扶養をされたりするような関係はなかつたこと、以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右に認定した事実関係に、前判示の本件事故の態様その他本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すれば、亡英子本人については、入院慰謝料、死亡慰謝料をあわせて金一一〇〇万円の慰謝料を認めるのが相当である。しかしながら、右認定の事実関係によつては、亡英子と最も親密な関係にあつた原告小早川一彦を含めいずれの原告についても、民法七一一条の類推適用により被告に対し固有の慰謝料を請求することができるものとすべき事情があるものとは認められず、そのほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

4  弁護士費用

原告らの請求する金二〇万円をもつて相当と認める。

5  そうすると、原告らは、右1ないし4の合計金一六四六万四三〇〇円の損害賠償請求権を前記各法定相続分に従つて相続すべきところ、その額は、原告小早川一彦、同小早川良民及び同永井葉子につき各金三六五万八七三三円(円未満切捨て)、原告小早川隆、同小早川幸雄及び同森川愛子につき各金一八二万九三六六円(円未満切捨て)となる。

四  以上によれば、原告らの本訴各請求は、被告に対し、右各金員及び右各金員に対する本件事故発生の日の後である平成元年四月一三日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 河本誠之)

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